ふむふむつうしん 第24回
平和をつくるのに必要なのは?!
三島に住み始めて数か月の間に、愛知から東京から、ひとりはフランスから!、友人や家族がなかなかよいペースで遊びに来てくれるおかげで、私は三島観光大使(自称)となり、三島について知るよい機会をいただいている。それぞれ関心や気づくことが違うからその人を通しても新たな発見がありおもしろい。そんな中、前回のふむふむつうしんでもご紹介した「三嶋暦師の館」に何度目かで寄った際、ボランティアガイドの方から、三嶋大社の本殿の彫刻の意味を教えていただいた。
唐突ですがみなさんは「平和」には何が必要だと思いますか?
三嶋大社の本殿を見上げると3枚の立派な彫刻がある。中央に「天照大御神 天岩屋戸より出で給ふ図」。これは「平和」の象徴。その右側には「吉備真備囲碁の図」。奈良時代に2度にわたって遣唐使として中国に渡った吉備真備が囲碁をしている場面で、「知恵」の象徴。そして左側には「源三位頼政 鵺(ヌエ)退治の図」。弓の名手だった源頼政が鵺(頭が猿、胴体が狸、手足が虎、尾が蛇で、気味悪い声で鳴くという妖怪)を退治している場面で、「勇気」をあらわすという。平和には「知恵」と「勇気」が必要ということなんですね、とガイドの方。それを伺ってから三嶋大社に行くと、見上げた彫刻は今までと違って見え始める。さて、知恵と勇気とはなんぞや。そして最近出会った一冊の本を思い浮かべた。
その本とはフランク・パヴロフの書いた『茶色の朝』(※)。20年前にフランスで刊行されてベストセラーになった、10数ページの物語。「茶色以外のペットを処分するように」という新しい法律を皮切りに、「茶色」以外の存在があっという間に社会から排除されていく物語だ。ふたりの男性のカフェでのたわいもない静かな会話を通して物語は進む。違和感を覚えながらも、「日常」を送る中で、違和感に慣れ、流れに身を任せていることでさしあたりの「安心感」を得る。そして気づいた時には時すでに遅く、取り返しのつかない状況に。今の日本の状況、そして毎日の小さな問題にも当てはまる、どきっとさせられる話だ。日本語版には哲学者の高橋哲哉氏のメッセージがついており、これも読みごたえがある。「やり過ごしてしまうとは、驚きや疑問や違和感をみずから封印し、それ以上考えないようにすること、つまりは思考を停止してしまうことにほかなりません。「茶色の朝」を迎えたくなければ、なによりもまずそれをやめること、つまり、自分自身の驚きや疑問や違和感を大事にし、なぜそのように思うのか、その思いにはどんな根拠があるのか、等々を考え続けることが必要なのです。(途中省略)。そして、勇気をもって発言し、行動することは、考えつづけることのうえにたってのみ可能なのです。」
知恵と勇気。考え続けること、そして一歩踏み出すこと。ひとりひとりの知恵と勇気が社会を変える力になる! (2019年7月 ソガベ)
※『茶色の朝』(物語/フランク・パヴロフ(藤本一勇訳)、絵/ヴィンセント・ギャロ、メッセージ/高橋哲哉、(2003年、大月書店))